Column コラム
一青妙さんコラム
四日目を迎えた今日は超早起き。足摺岬に日の出を見に行くということで5時45分スタート。夕日が沈むまで毎日走ってきたけれども、朝に太陽を迎えるのは初めて。暗闇のなか、規則正しい周期で放たれる灯台の暖かい明かりを感じながら、みんなで東の空に向かい、朝日が昇るのをじっと待つこと約15分。水平線に重なる白雲の影の輪郭が次第にくっきりとし始め、太陽が山の稜線のうえに浮かび上がってきた。曙色のグラデーション幅が徐々に広がると、灯台の明かりの存在感も薄らいでいった。
「あ、出てきた出てきた!」
興奮気味にその場にいた全員の声が揃う。
いよいよ太陽が雲海から顔を出す瞬間だ。海面には太陽が照らし出す一筋の道がキラキラと輝いている。さっきまで寒さで冷え切った体も、太陽のエネルギーをもらい、徐々に温まっていく。いつもなら、日焼けが嫌で避けてしまう太陽だが、このときばかりは自然のパワーを素直に受け入れた。
サイクリングで得た体験の一つとして、「自然の変化」に気がつくようになったことがある。都会育ちの私は、何かと便利な環境に慣れてしまい、移動は電車や車、飛行機と、大きな箱で囲まれ、フィルターを通しての空気や景色が当たり前になっていた。スマホ時代に入ってからは、目からわずか30センチほどの手元の世界に集中し、さらに視野が狭くなっていた。
サイクリングは違う。自転車に乗れば、当然ダイレクトに風を受け、雨や雪、時には波しぶきがかかるなかを前進し続けなければならない。
散った桜の花びら、低空飛行するカモメ、流れ行く澄んだ川の水、開く瞬間を待ち望んでいる蕾、道路沿いに黄色い絨毯のように咲き誇る菜の花、茶褐色の畑に混ざる遠慮がちなグリーン……。
まさに、春本番を迎えようとしている自然を満喫できる。
日の出を見ながら、そんなことを考えているうちに、暗闇に包まれていた道は、すっかりいつもの表情となっていた。
足摺岬を離れた四国一周サイクリングPRツアー隊は、東西に広い高知県から愛媛県に戻ってきた。
最終日は、これまでで最高のサイクリング日和となった。四国最西端の三崎港から愛媛県伊予市に続く「伊予灘・佐田岬せとかぜ海道」の一部を快走した。
「太平洋と瀬戸内海は全く違う顔を持っているのです」
出発前に聞いた言葉が、やっと自分のものとして表現できるようになった。太平洋は青の色をベースとして、果てしなく広くどこまでも広がっていく雄大さがある。瀬戸内海は同じ海の青でも、緑が強く、ブルーグリーンの海水を覗き込めば、底にゴロゴロと並ぶ岩肌が見えるほど透明だった。内海に浮かぶ島々や波際に上がる飛沫は遠慮気味で、太平洋に比べ、だいぶおとなしい。
愛媛県に入り、自転車のペダルを回し続けていると、あることに気がついた。道路に続く白線の横に、スカイブルーのラインが引かれている。通称「ブルーライン」と呼ばれ、サイクリストを目的地に誘導する線だ。
初日にも少し書いたが、今回、四国一周サイクリングの陣頭をとっているのは、愛媛県の自転車新文化推進室(現、自転車新文化推進課)。愛媛県は、広島県の尾道市から愛媛県の今治市を結ぶ、日本で初めての海峡横断自転車道「しまなみ海道」をスタートさせたのが5年前。あっという間に世界的に有名になった。その後取り組んできたのが、愛媛県全体をサイクリングパラダイスにすることだった。
まず、県内の各市町村と連携し、26のサイクリングコースを設定し、コースにサイクリング中、道に迷わず、快適に走れるブルーラインの敷設を行なったのである。他にも、マナー喚起看板や、コース案内板、ピクトと呼ばれる自転車走行マークの設置、整備を進めている。
なるほど、そう言われてみれば、愛媛県に入ると、自転車用の駐輪場で、自動販売機の各種飲料に混ざり、自転車のチューブを販売しているなど、何かと自転車に関連したものが多い。道の駅でのレンタサイクルも充実している。
「自転車に乗っていると、視線は上の看板よりも、下に伸びる道の方が見やすいでしょ」
自転車新文化推進室(現、自転車新文化推進課)と一緒に、愛媛県のサイクリング環境を改善し、今回の四国一周のルート設定も行ったキーパーソンが、門田基志隊長だ。愛媛県今治市に生まれた門田隊長は、台湾の自転車メーカー・ジャイアントに所属するプロサイクリスト。プロだからこそ、一般の人も安全に楽しく楽しめるサイクリングについて細かいところまで気がつき、常に「サイクリスト目線」をモットーに、地元愛媛県のサイクリング普及を考えている。
一見精悍なスポーツマンだが、実はとってもお茶目で優しい門田さん。様々な場所で記念写真用のポーズを考え出してくれるだけでなく、参加者全員を気遣い、終始盛り上げていた。私は自転車の乗り方について適切なアドバイスをしてもらい、サドルの高さや足の使い方なども教わった。
愛媛県を代表して参加したいつも明るくて元気な女の子は「ノッてる!ガールズEHIME」の渡邉愛羅ちゃんと渡邊愛ちゃん。ノッてる!ガールズEHIMEは愛媛在住の女子で結成されたサイクルユニットだ。普段は愛媛県内の各地を自転車で走り、自転車の魅力を発信しているが、今回は四国一周に一緒に初挑戦。ポーズを決め、弱音を吐くこともなく、常に爽やかに自転車を乗りこなしていた。
今回はメディアツアーということもあり、一緒に四国一周を回ったメンバーのメインは、自転車関連のWebや雑誌の担当者たちだ。
自転車雑誌のサイクルスポーツからは迫田賢一さんと西村裕貴さん、スポーツサイクリングの情報ステーション・シクロワイアードからは綾野真さん、自転車とサイクリングの情報サイト『サイクリスト』からは後藤恭子さんなどが参加した。他にも、日本の魅力を再発見できる雑誌『ディスカバー・ジャパン』やアウトドア専門誌『ランドネ』からの人たちもいて、そこに撮影隊や宣伝スタッフなども加わって、最終的には約40名弱で四国の各地を回った。
綾野真さん 常に先陣を切って走っていた
長身イケメンの西山靖晃さん
自転車関連のメディアの人たちは、仕事だけでなく、プライベートでも自転車大好きというツワモノばかりで、かなり本格的。バス移動が長く続けば、「走り足りない」と言い出し、最終地点から宿まで自転車で自走したり、朝一で遠くまでうどんを食べに行ったりと、私にとっては驚きの行動を見せた。
迫田賢一さん 常にシャッターチャンスを狙っていた
西村裕貴さん(左)
特に後藤恭子さんは同じ女性なのに、どんな坂もへっちゃらで、一緒にスタートしても、ぐんぐん引き離されてしまうほどで、ツワモノの男性陣に一歩も引けを取らない走力を持っていた。